長田恵子展「心のまなざしー私の好きな本ー」

2016年11月7日(月)〜11月12日(土)
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大の読書家である長田さん。前回の個展(もう7年も前のことでした!)と同様に、彼女が愛する古典や児童文学、現代小説をテーマに描かれました。壁に並んだのは、モンゴメリ、ケストナー、カズオ・イシグロ、小川洋子、梨木香歩、サローヤンなど18作品。それぞれの絵には長田さんの作品に対する思いが綴られたキャプションが付けられました。

© Keiko Osada

© Keiko Osada

『彫刻家の娘』トーベ・ヤンソン
この本をモチーフに何度も絵を描いています。
2003年当時、トーベの名は一部の熱烈なファン以外にはあまり知られていませんでした。2009〜10年に作成したこれらの展示作も、ブームが沸騰する前だったので説明するときは、ムーミンとトーベの関係から話したものです。
「なぜこんなネクラな作品を絵にするのか?」と意見されたこともありますが、トーベの分身である少女が、感受性豊かでちょっとシニカルで、私は大好きなのです。
読むたびに、絵を描きたくなる大切な本。

© Keiko Osada

© Keiko Osada

『忘れられた巨人』『日の名残り』『私を離さないで』カズオ・イシグロ
歴史を下敷きにしたり、ミステリー仕立てに飾ってあったり、ファンタジーの上着を着せていたり。
テーマの料理のしかたはそれぞれですが、希望と挫折、喜びと悲しみ、記憶と忘却などが、丹念にかき混ぜられ仕上げられた一皿であり、どの作品も複雑な味わいです。
作品のどの部分に自分を引き寄せるかで、イシグロに踏み絵を踏まされるような、自分の人間的な価値を試されているような気持ちになりました。

© Keiko Osada

© Keiko Osada

『僕の名はアラム』ウィリアム・サローヤン
サローヤンは、ブラッドベリとともに、私に、子どものイノセントものと、幻想ものと、移民ものを好むという読書傾向を意識させた、大切な作家です。よって新訳で文庫化されたことに感慨ひとしお。
今回再読して、特に、とぼけた味わいのなかの人生の悲哀に、心を動かされました。本に出会った20年前は爪の垢ほどもわかっていなかったなあ。私も人間的に少しは成熟したということでしょうか?
本は常に読者にとって新しいのだなあ。

© Keiko Osada

© Keiko Osada

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』梨木香歩
梨木作品の、現実とも幻想ともつかぬ、不思議なムードの漂う作風が好きです。そんな展開を期待したこの本、出だしこそさわやかなものの、不登校・風俗産業への転落などヘビーな問題がてんこ盛り。たった一日の描写なのに説明のしようがないほど濃くて哀しい。
「泣いたらだめだ。考え続けられなくなるから」
自分を見失わないために、考えることを止めてはならない・・・少年たちのひたむきさに諭される、大人の私。
焚き火を囲むシーンは、ほのかな希望を感じさせる箇所で私は優しく癒やされました。

多色刷りの銅版画水彩色鉛筆鉛筆などで加筆。
今回の展示では「森」の描写が繰り返し登場しましたが、まさに広大な物語の森の奥深くへ足を踏み入れるような感覚をお愉しみいただけたのではないでしょうか。
「無性に本を読みたくなった」「いままで知らなかった本に出会えた」。
そんな “読書の秋” にふさわしい一週間でした。

長田さんの他の展示作品はartistページでもご覧いただけます。

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